いつかどこにも行けなかった旅人のはなし/ホロウ・シカエルボク
していびきを立て始めるまで
レールを弾く車輪の轟音を越えて、あの日の夜がそこまで来ている
狂った時間、覆われた未来…くちづけをせがむ白骨化した愛のかたち
トンネルをくぐらないで、暗闇からあいつらが肩を掴みに来る
トンネルをくぐらないでくれ、俺はその瞳をもう覗きこみたくはない
可愛い小さな娘を連れた年老いた行商人が
さまざまな小物を持って俺の座席を訪ねて来る、記憶を振り払うような
そんなものはないかと俺が問うたら
そいつはひと包みの粉をくれた
「水と一緒に 腹ペコの時は避けて」
そう言って値段を言った
思わず聞き返してしまうぐらい安い代物だった
俺は金を払ってさっそく
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)