毬藻/黒田康之
 
と、父親の中に周囲を見て、平均的な選択を好みながらもどこか子どもじみたところがあることを告げて、「痴呆とか、遺伝の形質とかではなく」ということばで話を終えた。思いの外、彼は冷静でインテリでもあるらしかった。
 私は彼の錯誤がかなり根深いのを感じた。私は彼から視線をそらし、サイドテーブルにおいてある水槽を眺めた。夏の終わりの日を受けて、毬藻の入った水槽にはいくつもの気泡がこびりついていた。すると彼も私の視線を追った。二人は毬藻の吐く気泡に視線を置きながら、しばらくは沈黙した。彼の語る不思議はそこからさらに展開を見せた。彼は世界を語りだした。
 彼の語る世界はこんな風だった。この街に百万の人間がい
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