毬藻/黒田康之
告げた。すると、彼は明確にそれを否定した。彼の妻は今も健在で、三十四歳になる妻は、彼の父との間にできた第三子を腹に宿しているのだという。実感の籠ったことばだった。では、と私は口にして、彼が実は彼の父親との実感の錯誤だけではなく、それ以外の第三者との錯誤を有しているのだと思って、ことばを濁した。すると彼は、自身の手を撫でて、この体の感触が自分ではない、自分が加齢により変化したのではない実感があることと、父に触れたときそこには明らかに自身の加齢による変化の実感があることを私に伝えた。私は彼のことばにただ相槌を打つと、彼はさらに続けて、自分には本来なかった鋭利な刃物のような感覚が現在備わっていることと、
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