毬藻/黒田康之
。勉強も運動もごく平均的な少年として育つ。少々腕白な連中と仲間になって、時々近所の大人から叱責されることはあったらしい。その後、中学へ進み、その腕白少年たちとの絡みで、ガラスや掃除用具などを破損させ、学校に親が呼ばれたのが、唯一の目立った事件だった。彼は高校へ進み、大学へ進んだ。どこにでもある人生だ。大学を卒業して、地域の銀行に勤務し、上司と父親の紹介で、のっぺりとした表情の薄い、才媛だと評価のあった女と結婚する。そうして二男を儲けて、家業を継ぎ三十五歳となった。三十五歳になったある日、ふと気がついてみると、自分の妻である女があののっぺりとした才媛などではなく、ふくよかな自分の母の、記憶に鮮明にあ
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