毬藻/黒田康之
 
も初めてのクライアントが、申し合わせたように、離職経験者が再雇用時に面接を受けるようにおどおどと、彼自身の名と、三十七歳という年齢を口にした。
 私は彼をいぶかしく眺めながら、あなたはあなたの父親の名でなくあなたの名を名乗り、あなたの年齢を口にしているんですよと諭すと、少し視線を下げて苦笑した。そうして私は私ですよと言った。彼にとって名前は記号であり、年齢も現行の自分に付与された年齢なのだという。そうして彼は彼の人生を語った。
 彼の生まれた家は旧家で、もう三百年もその土地で暮らしているらしいのだ。その家の長男として生まれた彼は特に何不自由なく育った。彼は決して何かに秀でていたわけではない。勉
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