毬藻/黒田康之
のを感じていた。あまりに顔が紅潮したので、私は再びサイドテーブルの毬藻を見た。相変わらずややにごった水の中に無数の気泡が浮かんでいる。私はその気泡の海に棲息する微細な生き物を夢想した。灰色の体に無数の結節を持ち、表面はまばらな剛毛で覆われたその生き物を夢想した。前の手は大きな鎌になっていて、さらにいくつかの手と脚を持ち、剛毛の汗腺からは粘々した体液が絶えず噴出し、その体の結節の鋭い部分から、絶えず滴っているのだ。その生き物は竹槍のような禍々しい嘴を持ち、その嘴の中には無数の細かく鋭い歯が隠されていた。私の複眼はその時彼を一点に捉え、その禍々しい嘴を開いて深緑色の舌をべろりとむき出しにした。そうして
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