毬藻/黒田康之
旅行でのスナップなのだろう、見晴らしのいい高台で彼と彼の妻らしいふくよかな女が子どもを挟んで立っていて、背後から、しまらない顔で笑う老人が彼の肩に手を置いていた。これが彼の父なのかと私は合点がいった。もう一枚は、結婚式でのスナップらしい。タキシードを着た男とのっぺりとした顔の、目元の輝きが聡明そうな女がいて、ふくよかな中年の女と、むしろ彼に面影のよく似た壮年後期の男がその両脇ににこやかに立っていた。タキシードの男はいたずら好きそうな顔で微笑み、横の老年に差し掛かった男は心の芯に剃刀の鈍い光を持った目をしていた。
私は驚愕した。背筋の下の方から眩い戦慄がぐいぐいと押し上げ、首の脈が膨れ上がるのを
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