白いみずおと      /前田ふむふむ
 
りを抱いて。海は動かない。かもめだけが新しい。

頚椎に真夏の花が咲き誇っている。
花のにおいを嗅ぐ度に眩暈をおこす。
マスクは外せない常備品になった。
着飾った人形だったかもしれない。
それは、バベルのような尖塔がもえていた――朽ちた喬木を抱えて、
右往左往した研学に酔った日がなつかしい。
遠い声にみちびかれて、松明が瞼のうしろにみえる。
廃屋になった神社に腰をおろして、
ざらついた木目に手を伸ばせば、父の呼吸する翅の音のために、
母と幾度となく祈った、わたしのつま先が微かにふれる。
あの季節は、一面、街のさくらが、咲き誇っていた。

生命保険の看板が崖のように聳える
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