次第のひと/恋月 ぴの
殺風景なガラス張りの待合室に覚える
独特な曖昧さを避けてみるのも一興と敢えて
乾いた風の吹き抜けるホームに佇んでみた
乗ろうとして乗らなかった準特急の走り去った先には
見覚えのある古い建物の姿
あの建物の1階にはシューベルトの流れる純喫茶があって
陶磁器製のミルクピッチャーを持ったまま
あのひとの横顔を懐かしむ私が居た
何故私は乗らなかったのだろう
朝方の通勤電車のように混んでいたわけでは無いし
上手くすれば次の駅で座れたかも知れない
座ることに固執しなければならない程疲れているのだろうか
それとも慣れぬ仕事に途惑う心根は
忙しく流れ去る車窓に耐え切れなくなったの
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