次第のひと/恋月 ぴの
 
たのか

時計を気にしながらワイシャツの襟を立て
荒っぽい仕草でネクタイを巻く
男のひとなら誰でもそうするものだと思っていた
それなのにあのひとは
過ぎ去る時間を惜しむかのようにゆっくりネクタイを巻くと
わたしの膝頭へそっと手を置いてくれた

ガラス張りの待合室には老婆がひとり
所在無げに座っている
臙脂色のストールを肩に掛けていた

頭上で行き先表示がトランプのカードでも捲るかのように動き
まもなく各駅停車の到着を知らせた
そう今の私には
秩父巡礼の札所をひとつひとつと巡るかのような
昼下がりの各駅停車こそ似つかわしいと言うべきなのだろう

ホームを滑り出した車窓から待合室を見やれば
誰かさんに良く似た老婆がひとり
臙脂色のストールに付いた毛玉のひとつひとつ毟っていた



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