名前の無い少女/光井 新
 
案の定、名前の無い一人の少女を見つけた。沈み掛けの太陽を背に、柵の外側に立ち、泣きながら震えている。飛び降りようとしているが、怖くて飛び降りる事ができない、そんな感じだ。

 僕は校舎の中に戻り、必死に階段を駆け上った。
 しかし僕が屋上にたどり着いた時、そこに少女の姿はもう見えなかった。
 綺麗に揃えられた靴が取り残された、少女の立っていた場所。その周りには色々なものが散らばっていた。携帯電話や財布、死を決意してから飛び降りるまでの間、発狂していた時にポケットから飛び出した物だろう。

 携帯電話には、見るからに手作りのストラップが付いていた。押し花を貼り付けた札がラミネート加工され
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