名前の無い少女/光井 新
 
された物だ。見覚えのあるその花は、いつの日か僕が渡した小さな白い菊の花だった。こんな物をいつまでも大切にしていたなんて、しかも常に持ち歩いていたなんて。
 少女の気持ちを理解できずに怖くなった僕はとりあえず、手元にあるノートをちゃんと調べて、自分の名前を確認してみる事にした。自殺の動機として、名指しされた遺書でも残されていたら大変だというのもある。丁寧に探すつもりだったが僕の名前はすぐに見付かった。一人だけ、名前の上に二重線が引いてあった。

 下を見ると、先生達が少女の死体を取り囲んでいた。僕はそこに、ストラップを携帯電話から引きちぎって投げ落とした。
 ひらひらと落ちていく薄っぺらな菊の花を追いかけて、僕の涙が零れた。

 下のざわめきの中から少女の名前を拾い上げ、僕は少女の名前をやっと思い出した。
 その名前を僕は一生忘れない。

 次の日の朝、教室に入ると、机がもう片されている事に驚いた。
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