単純な喜びについての単純な唄/佐々宝砂
 
1 夜の庭で

白い米を
黒ずんだ木の升で三合量る

最初のとぎ水は
庭に撒く

立秋を過ぎたので
コオロギが鳴いていて
いるか座が光っていて

だから私はしばらく庭にいた



2 蒸しパンの匂い

新しい本を借りてきた

お金はないけど
時間はたっぷりあるので

引き出物の砂糖と
特売の小麦粉と
近所の農家にもらった卵と牛乳で
蒸しパンをつくって

お茶をいれて

本を読みながら
蒸しパンをたべる

蒸しパンの屑が
本にこぼれたら悪いなと思いながら



3 夕暮れの川

日がかげりはじめて
淵の青は濃さを増して
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