暗号/土田
カメムシが一匹裏返しになりながらもがいていた
もっこり倶楽部の歌声で広がった波紋でないことが
いま目と耳に入ってくるどんな出来事よりも先にすとんと心に落ちた
八月七日
新宿のセンチュリーハイアット前で秋田駅行きの夜行バスを待っていた
二十二時発だというのに一時間前についてしまった
雪駄と短パンとランニングというなんとも場にそぐわない格好だった
まるでおれは田舎の虫取り少年だった
むしろそれをピエロのように演じているつもりだった
腕を組んだ若い男女が場違いな格好を
チラッと一目見てホテルのなかに入っていった
おれはご勝手にどうぞとぼそっと呟きながらも
人の解釈の自
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