クロスレット・シルバー  /いすず
 
てしまっていたの」
千尋が思い切り、そのあたまを抱えて、はがいじめにした。
羽鳥がふるえていた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんの婚約者だったの」
なみだがつたわった。羽鳥がないているのだった。しずかに。ひとりでふたりぶんのかなしみをかかえた羽鳥が、千尋の思いをかさねて、ないているのだった。
「お姉ちゃんは気丈で、いつもあかるいの。そのかなしみにふれたとき、なんだか、心が一瞬にしてはじけたようになって。今は分かるの。お姉ちゃんだってなきたかったのに、なけないのを知ったとき、わたしが一番つらかったんだって。なかないお姉ちゃんが悲しい、誰よりもしあわせなはずのお姉ちゃんといてほしかったお兄ちゃんを
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