「オルゴール」 (リレー小説・三題噺)/佐藤犀星
まりへと踏み出せるのは彼女のお陰だ。
何もかもが本当に止まってしまえばいいと、私は確かにそう思っていた。
けれど、そんな弱い私の背中を彼女が押してくれた。だから今こうして、一歩を踏み出せるのだ。
でも、あの人との思い出のオルゴールだけは。あれだけはどうしても残せなかった。
女は私のためを思って置いていくように言ってくれたけど……そういえば、いつになく彼女はむきになっていたっけ。
考え事をしていたせいだろう。オルゴールをそっと閉じようとして私は手を滑らせてしまった。すると、聞き慣れない旋律が流れてきた。何かの部品が外れる音がして、オルゴールの底板に色の違うところがあった。そ
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