君の背中に追いつかない/秋桜優紀
 
れでも彼は、わかっていたのだ。この発作で、自分がどうやら死ぬであろうことを。だから、私との約束を破棄しに来た。ここまで、発作で暴れ狂おうとする心臓をなだめすかしながら。
 馬鹿な。では、もしここに来なかったら、悠人は助かったのではないか。私が、彼を殺したのではないか。しかし、そんな問いは、全くの無意味だった。悠人が死んだという事実は、どうしたって消えることはない。
 私は、抜け殻になった。悠人を手放してしまった。気付けなかったことに対する喪失が、あまりにも多すぎたのだ。お腹が空いたという欲求も、生きたいという思いも、悠人が死んだことに対する悲しみさえ、抱けなくなっていた。だがその分、胸が痛む。
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