君の背中に追いつかない/秋桜優紀
――やっぱり、残酷だよ。
その晩眠れるはずもなく、私は聞こえてくる様々な音に、耳を澄ましていた。雨がアスファルトに弾ける音。雷が不機嫌そうにごろごろと鳴る音。誰かが勢い良くトイレを流す音。看護士さんが歩く硬い音。
四時を過ぎた辺りに、人の声で小児病棟の辺りが少し騒がしくなったが、一時間もすると、静かになった。
やがて、永遠に続くかと思われた夜が過ぎ、小鳥が小さく鳴く声が聞こえ、少しずつ日光が部屋の中を照らし出し始めた。小鳥のさえずるメロディの華麗さは、天上の音楽だって敵わない。キラキラとガラス窓を透かして差し込む光の美しさは、この世のどんな宝石だって敵わない。気分は最悪のはずなのに、私は生
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