君の背中に追いつかない/秋桜優紀
 

 いつもは抱きつくと嫌がる悠人が、そのときは少しも身じろぎせずに、私にされるがままになっていた。私を見る悠人の瞳は、私の感情を全て透かして見ているように落ち着いている。それでも、少しも嫌な感じはしなかったのだ。何を見られても、何を知られても。今なら、悠人になら、少しも構わなかった。
「あのな」
 悠人が、私の胸の中で言う。
「俺、約束をなしにしようと思って来たんだ」
「約束……?」
「一緒に退院しようって、一緒に遊ぼうって、あれ」
 心臓が跳ねた。
「どうせ、無理だろうからさ」
 無理だ。無理だ、確かに。私はどう考えても助からない。一緒に遊ぼうという約束を守ろうとするならば、
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