君の背中に追いつかない/秋桜優紀
 
醒へと引き上げられた。
 こんこん。
 また。懐かしい感触の遠慮がちな、強い雨音にかき消されてしまいそうな小さな音。それは、入り口から聞こえて来ていた。時計を見やると、夜中の三時を過ぎている。こんな時間には回診も有り得ないだろう。
 一瞬で、思考は一人の少年の存在に辿り着く。
「ゆう……と?」
 ベッドから降り、ゆっくりと入り口に近づいて行って静かに戸を開けると、そこには青いパジャマに身を包んだ小さな男の子の姿があった。
「――お姉ちゃん」
 瞬間、私はその小さな身体を力一杯に抱き締めていた。紛れもなく、悠人の身体、声、におい。私がずっと欲しがってやまなかった、悠人そのものだった。
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