君の背中に追いつかない/秋桜優紀
名前。悠々自適の悠に人で『悠人』。『君』なんかじゃないよ」
「ん、そっか。なんか君らしい名前だね」
「だから、『君』じゃねぇってば」
「ごめん、ごめん」
その会話の間にも少しずつ出口に近づいていく悠人に笑いかけてから、ベッドに身を沈めた。夕陽はとっくに沈んでいて、もうすっかり、漆黒を塗りたくったような夜の暗さになっている。
「また、すぐ来るからな」
閉まる扉のパタリという音に紛れて、悠人の小さな声が、それでも確かに私の耳まで届いた。
「うん、待ってるからね……」
母がその夜やってくるまで、私は蛍光灯もつけずにそのままベッドに寝転んでいた。暗い部屋で天井を見上げ、悠人の言葉をひ
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