君の背中に追いつかない/秋桜優紀
 
の音さえしない。秒針の音と、水道から水滴がこぼれる無機質な音だけが、無音の病室に冷たく響く。それに重なるようにして、身体の奥で心臓がトクン、トクンと脈を打っていた。
私はまだ、生きている。生きていると、息もしなくちゃいけない。意味も無く息を殺しているのもいい加減苦しくなってきたので、仕方なく口火を切ることにした。
「それで、どうしてここに来たの?」
 男の子は視線を上げて私に焦点を合わせた後、何を言うべきかと言葉を探して、視線を虚空に彷徨わせた。
「謝りに……来た」
「謝るって?」
「いや、何か良くないことたくさん言ったし、それにその……色々ありがとう、って……」
「色々?」
「う
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