六月/ふるる
海の話をしてくれるからです
女の子の父親は元気でいるようです
妻や娘への想いを海に託し
海は雨雲となってそれを届けます
女の子はやがて一人の若者に恋をし
庭の花を摘んでは顔をうずめるようになりました
母親は思い出します
自分が初めて女の子の父親に出会った日のことを
やわらかな雨の降る六月のある朝のことを
やがてこの国でも戦争がはじまり
女の子が恋した若者も兵士となりました
若者は緑色の瞳でじっと少女を見つめ
さようなら、と告げました
そのたった一言で
ふたりは全てを知りました
恋する者同士が知る全てのことを
開戦は六月
雨は降っていませんでした
若者
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