六月/ふるる
若者が乗る爆撃機は敵機に狙われ
打ち落とされる寸前に
海がそのまま襲ってきたような豪雨に見舞われ
彼は助かりました
彼からの手紙でそれを知った
女の子の母親は
きっとこの子の父親が守ったのだと思うのでした
妻と娘を想う心は
すっかり雨に溶け込んで
雨が降るたびに
その季節のたびに
妻と娘を抱きしめるかのように
家を庭をおおい
白く透明な雨粒のベールは
立ち去ることがないからです
女の子は小さな小さな桃色の靴を手のひらに乗せて
歌います
遠くいとしいあの人のために
遠く懐かしいおとうさんのために
いつか、わたしの子が生まれるとしたら
六月の歌を教えましょう
歓びと感謝の歌を
いとしい家族を想う歌を
やがて春になり
風が若葉や清楚な花の匂いを運んできました
女の子の家の呼び鈴を鳴らすのは
戦争が終わって帰ってきた
あの若者でしょうか
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