いつかおまえの胸もとに流れた歌のことを思い出す/ホロウ・シカエルボク
 
ひとつもありはしなかったけれど
肩が触れた瞬間に聞こえてきたメロディはみじめな気分を遠ざけてくれた

うだるような暑い夏に自分を失って
約束を閉じ込めたひと組のソーサーを叩き割った
俺との間にすべてを失ったおまえが幾日もせずに部屋を飛び出した時
おまえの胸もとに流れていた歌のことを俺は気にとめもしなかった

いくつかの夜と昼がうわ言のように通り過ぎ
落葉の褐色が無軌道な炎をなだめる秋の頃
肉体を押しつぶすような空白がその歌の不在だと知る
手遅れの確信にうろたえながら窓を開き通りの流れにおまえの姿を探す早い夜に
俺の中に住む弱さがおまえに責任を求めたことを
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