針と糸/ヨルノテガム
 
色に私と同じような顔なき屍が倒れ消え去り、
現れ倒れ、また消滅して
鋭利な針が生温い夢を細かく刻んでその行方を
さらに緻密にさらに稚拙に捨て置き汚していた
私が「情報の海の女神」と呼んだ幻の正体は
幹に空洞の在る偉大な老木であった
私は誰からもかかって来ない携帯電話に
「もうふたりばかりの私」が語りかけてくる一言目を
注意深く待ちわびていた
秋から冬に変わる霧の朝、わたしは電話を構え
あらゆる返答を用意して
言葉を仕留める何かを振り上げる





私が「情報の海の女神」と呼んだ人は
「情報」を捨て
「の」を必要とせず
「海」「女」「神」の所在を消し去って
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