「 蛇。 」/PULL.
中は夜だ。わたしのからだの中に太陽はなく、月に一度赤くなる月しかない、男の躯の中のことはまだ知らない、わたしはまだ蛇になったことはなく、もちろんどの男の躯にもぐり込んだこともない、わたしは父も知らない、確かに父の躯の中に宿り排出されたわたしであるはずなのに、わたしにその記憶はない、幼い頃父のことをしつこく訊くわたしに母はただ一言、冷たいひとだったと、言ったのだった、以来わたしの中の父は冷たいひとになった、冷たい、この男の冷たい躯は父を想わせる、わたしは二つに裂けた舌を這わせ男を奮い立たせようとする、男の肌は青く氷のように冷たい、わたしの舌が男の太陽の皺をちろちろと舐める、男が冷たく奮い立つ、なめら
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