記憶に巣食う鬼/小野カオル
はなく、輪の真ん中に座り込んで手で顔を隠している鬼だった。
そんな空っぽの記憶の中でも覚えていることもある。小学校3年生くらいのときだ。私は一人テレビドラマに釘付けになりながら、止め処も無く涙を流していた。涙を拭うティッシュ箱が空になり、タオルも間に合わず、今度はなんとバスタオルがびしょぬれになった。人の体からそんなに水分が出るのだ。2時間ほどのドラマが終った後も涙はしばらく出続け、私はぐったり疲れて座布団の上に横になった。
ドラマのタイトルは「イエスの方舟」。千石イエスと呼ばれる男と彼を慕う若い女性たちの実話を基にしている。布教活動と聖書の勉強会を行う千石のもとに、家庭に居場所が
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