卵百景/錯春
 

私は上野の地下商店街でソレを見かけた
殻を剥くと
内側には無数の血管と翼の生えた胎児が眠っていた
血管は都会の空を覆うソレと同じで
ちいさなジオラマを見ている気分になった

俺も若い頃ぁそういうふうに思ってたこともあるさ
皆そういうんだよ
田舎もんの方が空模様に敏感らしい
と、店主


ひび割れた窓のごとく
赤い亀裂の走る空の中で
私たちは
決して訪れることが無いであろう
黄身まみれの羽根が乾くことを夢見て
ひざを抱え、ぢっとしている

寒々しい片田舎では
ブラウン管に映る都会は天国のようでした

天国は夢と希望と挫折がいっぱい
天国は怠惰と
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