ねむらない/たもつ
 

十分にかわいそうな子だった

+
 
前の母の眠っている姿を
ほとんど見たことがなかった
夜中に目が覚めて
「ねむらない」の水槽を覗いたときも
母は針仕事などをしていた
寝床にいる母が目を瞑ることなく
仰向けのまま豆電球の灯る天井を
じっと見ていたこともあった
表情の無い横顔だった
何か恐くてなって
わたしだけが目を瞑った

+

夏の暑い日だった
 お魚、もう逃がしてあげようか
餌をあげているわたしに新しい母が言った
 お魚、こんな狭いところにいても窮屈よ
「ねむらない」という名前を
新しい母に教えたことはなかった
 それにお魚にも家族がいる
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