ねむらない/たもつ
 
いるはずだし
その後も母の言葉は続いた
わたしは知っていた
きれい好きな母が
みすぼらしい魚や
不衛生な水槽を嫌っていたことを
 
+
 
「ねむらない」を小さな容器に移し
用水路に行くと
わたしは「ねむらない」を捕まえた場所に放した
「ねむらない」は上流の方に頭を向けて
ゆらゆらと泳いだ
暑くてお腹もすいたので早く帰りたかったけれど
お別れに泣かなければいけないような気がして
悲しかったことの断片を
できるだけたくさんかき集めた
どこか遠くの薄暗い部屋で一人
目を瞑って眠っている前の母を思い浮かべて
初めて涙が出てきた
  
 
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