ねむらない/たもつ
の?
「ねむらない」
可愛い名前ね
母の眠っている姿を
ほとんど見たことがなかった
夜はわたしより遅く寝たし
朝はわたしが起きるとすでに家のことをしていた
少し古い感じのする母だった
くすんだ色と匂いがよく似合った
+
魚には瞼がなくて
じっとしている時に眠っている
と動物の情報番組で知ったのは
それからもっと先の話
もう「ねむらない」がいない頃の話
+
悲しいことがあるとわたしはいつも
「ねむらない」に話しかけた
悲しいこと、といっても
幼い悲しみなどたかが知れていた
給食が食べられなかったとか
好きな子が他の子と仲良くしてたとか
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