昨日は孤独な世界?/錯春
 
想は、口に出すのも恥ずかしいくらいに、甘口なロマンティックさを持っているように思える。
だが、彼は実際に死体を見たことがある(それは高齢の親族との離れが進んだ現代では、とても珍しいことだった)

しかも、それは昨日の夕方のことだ。

(すっかり理科の標本みたいになってたけど、もっと早く見つけてれば)

なぜ、「もっと早く」と思ってしまったのか、彼には解らなかった。
つまり、彼にとって、死体はリアルではなかった。
網膜にいくら焼き付けても、気配はアメリカンジョークのように、彼を通り過ぎた。
(彼は無意識の内に死に動じない自分を否定しようとしていた。彼は死を禍々しいモノだと教わり
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