季候に順う/小野カオル
 
も木でつくられた建物は今よりずっと低く、その分空の面積が広いのだから、騒々しい感じはしなかっただろうか。あくせく日常を営む下界の上に天界がどーんと座っているような構図の風景だったか、などと考えていた。
 
 そうやって歩道を歩きながら風を感じていた。さほど強くはない向かい風だが、髪が両頬のあたりで揺れ、コートの裾は翻って裏地が見える。少し肌寒い。夕方までにはまだかなり時間があったけれど、高い空は淡灰色のうろこ雲に厚く覆われてひっそりとしていた。その空が、高層ビルや、それほど高くなくとも巨大で堂々としたヨーロッパ風の銀行の建物に切り取られていた。通りを規則的に縫う信号機やデパートのショーウィンド
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