夜のナイフ/ブライアン
語一句覚えていることなど出来るはずがない。彼は、彼女の横に座る。なんと話しかけたのだろう。彼女は彼との間を保ちながら、ビールを口に運ぶ。彼は彼女に愛の告白をしたはずだった。あきれた顔をして彼と彼女を見ていたのだろうか。いや、愛の告白なんか気にかける者はいなかった。面白そうに食いつくことも、しらけた態度をとることもなかった。
彼は目に見えて語気を強めた。ベランダで叫ぶ友人よりも力強く。そう、あの夜だった。無言の冬の夜は、彼の声に答えたのだった。闇にチラチラと雪が降ってきた。不規則に降りてくる雪。ベランダから吹き込む冷気。彼のほうを向く。彼をあしらう彼女。彼は彼女の正面に回りこんだ。乾き物のお菓子
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