私の言葉は公共物である/キリギリ
 
る日、私が闘犬場の横で準決勝の歓声を聞きながら
白いテーブルで紅茶をたしなんでいると向かいの空席に
浪人生の典型的要素を全て兼ね備えた男が座り
両手の平を私の前に突き出してきた。見ると、右手には
ピーナツが山盛りに乗せられ、左手にはバターが塗られている。
どう対応するべきか思案していると男はおもむろに両手を擦り合わせ
「バタピー」と言った。こぼれ落ちる無数のピーナツ。準決勝は柴犬が勝った。
男はテーブルのピーナツを1つ拾うたびに3粒以上落とし
「きりがないなぁ」と笑った。そして「こうしていると幸せなんです」と言って
私を見た。

この話に結末はない。男がまだ目の前にいるからだ
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