砂の女の楽譜/《81》柴田望
促すにがい血だ
ある孤独者の奥底から
なだれ落ちる陰謀のせいで
目のまわりや口元の赤く腫れあがった結節が
キモいという理由で
きみが某製菓会社の職を追われたから
ぼくは消費期限偽装の
証拠を掴んではいるが
どうかわたしだけとは思わないで、と
きみは言うのだ
引き算は
きみの望むところではない
ただ、普段通り
元同僚の わたしだけ、に
これで一緒ね、を足す
なんて美しい病だこれは
アレルゲンだらけの生地の粉に
皮膚呼吸を腐食された
従業員たちをきみは気づかう
自ら引き寄せた罠に陥り
何度も脱出を試みた男が
立ち去らなかったとき
自らが必要としていた
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