砂の女の楽譜/《81》柴田望
 
いた罠であったと
自覚していたかどうかはともかく
脱出には注目していなかったように
ぼくだけ、 でも
わたしだけ、でもない
たった一人の だれかだけ、じゃない
訴えてはならない
あいつを殺そうとするかぎり
あいつとはぼくであり
あいつ同様
きみや
じぶんを傷つける

隣接諸国に恥じぬだけの
注目の対象をわが国が得るために
マスメディアはきみを見習うがいい
だれかだけ、じゃなくて
わたしも、
あなたも、

きっと
みんなも、

きみが無限に見せる一度きりの表情
ぼくら夫婦に足し算がもたらされた
砂の女よ
産まれてきた子どもはだれよりも
きみに似て
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