爆裂(上、前)/鈴木
 
を合わせて、毛の繁茂する胴が動いている。
 ――泣くな。
 と言った。しゃくりあげながら祥平は
 ――うん。
と答えた。それから蛾は触覚を前後させていたが急に飛び上がった、と思えば影にさらわれてしまった。黒猫だった。瞳孔の開いた両目だけが暗中にはっきりと、吐き落とした蛾へ向けられていた。なぶられる弱者の抵抗は徐々に減じ食器を打ち鳴らしたような奇声を伴って途絶えた。黄色い体液にまみれた骸を咀嚼しつつ黒猫は祥平に近づき差し出された手のにおいを嗅いだ。嚥下すると歯を剥きだした。階段から熊が降りてきて祥平の左側にあぐらをかく。男児を挟む形で猫へ喋りかける。
 ――なるたけ右を取りたかったんだがね
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