爆裂(上、前)/鈴木
もらったものだった。表紙では女子が無数の時計の並ぶ部屋を裸足にツギハギだらけのコートで歩いている。「時間どろぼうと 盗まれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語」。眼界の隅で錆色の亀裂が走ったけれども意識した途端に消えている。
――なにしてんの?
結城茜の無垢な声が二人きりの居間に飛んだ。六歳の春を迎えた彼女と祥平は「社ヶ丘パークマンション」C棟・四○一号にて小学校入学までほぼ毎日一緒に過ごしていた。それぞれに幼い子を抱える共働きで仲のよい両家としては必然的な発想であったが、あらぬ方向を見つめて恍惚とした表情を浮かべてばかりの祥平が急に一人を嫌がりだしたことも大きかったのだろ
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