爆裂(上、前)/鈴木
 
ていた。
 ――対して書かれたものは文字にすぎず、だからこそすべてを取り出すことができた。大人を連れてきて一緒に寝てもらうこともできたし、知らない土地で見聞を広めることだって難しくはなかった。そして十九世紀のロンドンも少年たちの無人島も、虚構だろうがなんだろうが己の中に再構成する必要なく他者の世界として実在していた。ぼくにとっての読書の喜びにはどこかこういう期待があったのだ。想像による他者の並列で創造による自己の肥大を防ぎ、あの悪夢をそのうちにありふれたものとして始末できるという。
 真ん中の棚には中学生時代の愛読書が陳列していたが、最下段の右から四冊目にある『モモ』は六歳の誕生日に買ってもら
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