変身/りゅうのあくび
 
があって
黒髪にはきっと今
一匹の黒い竜が
紛れ込んでいるのだろうと思う
ちょうど神話が
終わるときみたいに
沈黙をしながら瞬きをする
灰色をした陰の色彩は
思春期の少年の
あこがれを想わせていて
ふと帽子が恋しい

 *

椅子の前にある鏡には
切り落とされた黒髪が
床の白いタイルへと続く
長い裾のマントを
滑っていく姿はまるで
和紙の上に滲んでは
一千年より太古の伝承にある
水墨画のように映っていて
まるで吹きすさぶ薫風のなかで
竜の翼がはためいて
黒い鱗が飛び散っているみたいに
黒髪に宿った竜は
放熱しながら
吐息がまじった声で啼くように
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