黄色の憧憬−デッサン/前田ふむふむ
 
――
                         しずかな夕立の声
わたしは、病院の受付の手続きのために、もうかれこれ数時間も並んでいる。
死者の眼を恋しがる老人――洗っても落ちない八月の鮮血の手を頬にあてる。
鋭利なカッターを一点に見据えて、顔を凍らせる少女――
楽園はみずの乳房を開いた。
青い草を遠い眼差しで懐かしみ、枯野を抱える一度死んだ男――
透ける足に絵具を塗る一度死んだ妻が、
男のために透けた世界に名前を付けている。
――はり紙がゆれる。
ひとつひとつの断片が水滴のにおいを帯びて、――
足もとを弾く、うな垂れた雨音。
やがて、受付を済ませて、死人のような病
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