影のない犬/木屋 亞万
 
の兄弟がどれくらいいるのかすら知らない
自分が子どもを生むことも経験しなかった
自分の周りの生命はどれも目の前では死ななかった
自分の世界に現れるものはすでに生命だったものばかりで
ずっと生命のままだった


  私が死んだらこの犬は困るだろうかと考える
  今の私にとって守るものはこの犬くらいだ
  小さな釣具屋を細々と営んでいたが
  近所にできた大型チェーン店に負けて四年前に店を閉めた
  店を続けるよりも貯金を切り崩しながら生活するほうが
  赤字が少ないことがわかったときに
  私の仕事はなくなった


店をやめてから爺さんは元気がなくなった
まあ元々元
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