風を見ると懐かしい/木屋 亞万
 
かな感覚を
余すところなく刺激され
清々しさと情熱が
私を支配しました
私は人間になりたい
実体として彼女の近くへゆけるなら
猫でも犬でも蚊でも蝿でも構わない
そう思ったのでした

私の願いは具体的に死ぬことを要求し
私に蓄積していなかったはずの経験が
実体を持って現れ始め
次第にそれを包み込む皮が現れ
私は人間になれました
都合のいいことに彼女と
あの場所で人として出会えるように
時を移動し生まれていました

最初は嬉しさが溢れて
気が済むまで泣きました
知らず知らずのうちに
笑う素直さを手に入れて
しあわせの塊のようでした
けれど
人間には人間の
[次のページ]
戻る   Point(5)