風を見ると懐かしい/木屋 亞万
 
すか

死の瞬間、私はもう風ではありませんでしたので
絶対的な自信はないのですが
私は風という物質であることをやめようと
思ってしまったことが原因であると考えています
私は人間に近い物質になりたいと願いました
秋空の下、一人の若い女性の近くをゆき過ぎた時でした
彼女は広場に腰掛け、友人と談笑していました
そのブラウンのスカートの上を流れていきました
金木犀の香りを乗せては引き返し
夕方の涼しさを乗せては頬に吹き寄せました

どのような木をも凌ぐしなやかさと
どのような砂よりも白い滑らかさがあって
雪、花、雨、森、海、砂漠、嵐、ビル群
私が風として身につけていた幽かな
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