せかいをいきる/吉田ぐんじょう
 
じん蝉が鳴く
切なさのような感覚である


米を研ぐときが
一日のうちで
もっともさみしい時間のように感じる
台所でひとり背中を曲げて
ここにはいない誰かのことを考えながら
指先に はかない感触

さくさくという音は
壁に反響することなく消え
自分の影ばかりが
塗りつぶしたように真っ黒だ
なんだか絶望してしまう
永遠ということについて考える

すこし寒い

とても寒い


何もすることがないので
掃除のようなことをしている
何かを一生懸命やっている振りでもしないと
体から空気が抜けて
ただのみすぼらしい残骸に
なってしまうような気がするの
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