転がるひと/恋月 ぴの
四)
いずみとの出逢いについて思い出してみる
あれは霙混じりの冷たい雨が降りしきる夜だった
まーちゃんの知り合いに連れられて
この店をはじめて訪れた
出版記念パーティの流れだとかで
纏った黒いコートの下には
サテンのような肌合いの黒いスリップドレスを着ていた
「ひよこさんなのね」
いずみは自らをキキと呼んで欲しいと言った
黒いドレスの似合うおんな
マン・レイの愛人
藤田の描いた乳白色の肌を持つおんな
キキ
男の股間をまさぐるような眼差しと
利発すぎる微笑み
恥じらいを演じることのできるおんな
キキ
(五)
それからキキは足しげくこの店を
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