通俗ホラー詩 「鉄輪」/右肩良久
 
の裏路地のショップで三日月型に反り返ったナイフを買ったとき、下半身から登る性的な快感にうずうずと脊髄を震わされた。声が出そうになるほど、喜びに濡れていた。店を出ると途端に興奮が冷め、風音と生臭いカラスの叫びで二月の空は隙間なく満たされていた。温かいものを飲みたくてもポケットに小銭一枚残っていない。道には誰もいないが暗い光の中、あいつの残像が薄赤い影になって私のすぐ横に立っていた。今もおそらく立っている。それからは顔を真っ直ぐに向けたままでいる。右にも左にもどうしても動かせない。時々、肩の上でゴキブリがカサコソと音を立てる。それでも顔を横に向けられない。
 通勤の駅のホームに立って、正面のビルのデ
[次のページ]
戻る   Point(1)