通俗ホラー詩 「鉄輪」/右肩良久
 
かにも馬鹿臭いねえ。これでいい。今は静かにおやすみ……。

 私は十日前の月曜日に、JRの貨物基地の奧へ連れ込まれ、停まっている貨車の鉄輪に身体を押しつけられて、誰かにこんな暗示を掛けられたのだ。暗示を掛けた人の顔は思い出せない。夢で見る時にも恐ろしくて眼を上げられないから、たぶんもう二度と思い出せない。私のコートのポケットには、今も裏蓋に蛇の線刻がある銀側の懐中時計が入っている。あいつが入れたのだ。この時計が何日後かに、何時かを指したら暗示が発動してしまう。私はそれがいつかを知らされていないが、確実なことだ。その証拠に私は毎日、何回も時計を取り出して蓋を開け、時間を確かめる。それに御徒町の裏
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